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> 2003年1月(123)
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楽聖に酔う(上)
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2003/1/1(Wed)
久し振りにベートーベンを堪能した。といってもあまりメジャーではない交響曲7番である。
作曲や編曲を志す人にとってこの曲の第2楽章は暗譜するぐらい聴く価値がある。この楽章は一つの主題を楽章全体に敷衍しえたという意味では完全な作品といえる。実に単純なモチーフをどうしてここまで様々に展開できるのか舌を巻くばかり。しかも主役を演じる楽器は次々と変わり、さらに主旋律を譲った楽器は元の旋律と連続しつつ、次に主旋律を請け負った楽器に対して絶妙に絡む別旋律になっている。無駄な音というものがないのだ。
小谷隆
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楽聖に酔う(下)
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2003/1/2(Thu)
ベートーベンの7番で久々に打ち震えて以来、スコアを手放せなくなっている。まったくもって200年も演奏され続ける曲というのは楽譜を見ても永年の風雪に耐える緻密な木造建築を思わせる。見た目は堅牢さの中に繊細な危うささえ醸し出す建物であるのに、その危うさがいささかも崩れず保たれている古刹の堂閣のようだ。繊細さそのものが堅牢さを構成する。名曲とよばれる楽曲はそういう造りになっている。
数年ぶりに楽聖の緻密な総譜を眺めるにつけ、未だ浅薄な己れの理論体系をよりいっそう深めていかなければと身が引き締まる思いだ。
小谷隆
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活字のマジック
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2003/1/3(Fri)
仕事がら出版前の原稿の校閲を多くこなしてきた経験から言えることだが、文章というものは印刷物になると不思議なほど格調高く映る。今どきは原稿からすでに活字だが、本や雑誌といった印刷物の活字は明らかに違ったものになる。ワープロの生原稿では目も当てられないほどひどくて直す気にもなれなかった文章でさえ本になるといかにも「売り物」にふさわしい文に見える。
しかしそういった経験のおかげで今では出版物の体裁に誤魔化されることなく文章を吟味できるようになったわけだが、おかげで世の出版物の8割は気持ち悪くて読めない。
小谷隆