2002/3/24(Sun)

　前々回書いたのと似たような理由で、僕は今度の旅にも音楽関係の機材はいっさい持ち込んでいない。スケッチ用の五線譜とペンだけである。旅心は創作意欲をかき立てるものの、その場の情動はごく短いスケッチに凝縮しておき、あとで記憶の中に残った印象だけを頼りに「再生」をはかる。それでこそリスナーと同じ側に立てる。
　記憶は時間とともに薄れる。が、強い印象は抽象化されていつまでも脳裏に残る。創作の源として用いるに値するのはその強い印象だ。時間という篩をかけられてもなお生き残るものしか信用できないということである。

小谷隆